板図と刻み
八ヶ岳南麓の冬は雪が少なく、積もることはめったにありません。しかし、何年かに一度は、こんなことになります。
私もこちらに住むようになって、もう6年になりますが、これほどの大雪は、初めての経験です。しかも、立て続きに雪が降り、前の雪が、十分に解けないうちに、積み上がってしまいました。普通なら、八ヶ岳南麓ならではの陽射しが、あっという間に雪を溶かしてくれるのですが、それが間に合いませんでした。
そんな中でも、8KUMO建設の作業は進んでいます。こんな図面ができあがりました。「板図」といって、大きな板の上に、柱や梁、束石の位置が、きれいに描かれています。CADでかいた図面とは別に、こうやって職人さんが、板図にするわけですが、これができる人が、いまでは少なくなったそうです。
多くの建設現場では、CADデータを木材の加工業者に送り、「プレカット」と言って、工場で加工して、現場でそれを組み立てるやり方が一般的になりました。しかし、8KUMOの建物は、こうやって「板図」を書いて、職人さんたちが、ひとつひとつ丁寧に「刻み(きざみ)」を入れて加工してゆきます。
ひとつひとつの木の性格に合わせ、あるいは、現場で「こうしたほうがいいなぁ」となると、職人さんたちの経験と勘で、きめ細かく調整や変更できることも、「板図」を使って、加工することのメリットでもあるわけです。
これはもう、「アジャイル開発」ですね。スクラムマスターである棟梁と職人さんたちの自律したチームが、板図を共有して、それぞれに自分の仕事をしてゆくわけです。当然、変更はあたりまえで、それにも柔軟に対応できます。
仕事をお願いしている「素朴屋」の社長が、こんなことを言っていました。
「設計と大工は一緒に仕事しなくちゃいけない。そうしないと、お互いの知恵を活かせない。何よりも、お互いが信頼して、相手のことが分かって、仕事しないと、良い建物はできないからなぁ。」
まさに、アジャイル開発の自律したチームそのものじゃないですか。どの世界も、同じ発想があるのだなぁと思いました。
それぞれに専門性を極め、あるいは機械乾燥させた木材のプレカットを使えば、設計と建築を別にすることができて、効率も上がります。しかし、自然の土地や材木を相手にする場合は、そうはいきません。
特に、8KUMOの建材は、8KUMOの森で切り出した木材をそのまま使いますし、乾燥もまだ途中ですから、それぞれに縮んだり、曲がったりします。そんな木材の個性を見極め、うまく木組みをすることで、縮んだり、曲がったりする方向をコントロールしなければなりません。また、森の地形や森の木への配慮も必要です。そうなると「アジャイル建築」ができないとうまくいかないのは当然のことだと思います。
ところで、これが、8KUMOの森で切り出した唐松を製材したものです。濡れないようにとビニールをかけてありますが、職人さんがそれを見て、「ちょっと汗かいてるなぁ」なんていっていました。素人には、気がつかない木の変化を見て、この木をどう加工すればいいのかを考えているのでしょう。
この屋根の板図、格好いいですよね。「とてもボリュームのある屋根になりますよ」とのことで、その仕上がりが楽しみです。
この大雪ですから、しばらくは現地での作業はできませんが、作業場では、板図を作り、木材の刻みも始まり、確実に前に進んでいるようです。